映画「ノマドランド」が素晴らしい理由/現代の遊牧民ノマドを描く人間賛歌

「ノマドランド」

Nomadland

アメリカ(2021年)

まだまだどうなるかわからない2021年ですが、
フランシス・マクドーマンドが3回目のアカデミー主演女優賞に輝き、
アジア系女性として初めて、クロエ・ジャオが作品・監督賞を受賞したことは感動的な大ニュースでした。


たくさんのニュースに記事にとなった作品なので、いまさらではありますが

最初の10作品にしたいと思い、記事にしました。


「ノマドランド」の素晴らしさを徹底解説していくので、ぜひ参考にしてください・・・と言いたい所ですが、未視聴な方には、まずはノマドの暮らしと素晴らしい景色に身をゆだねて観て欲しい作品です!

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≪映画.com≫

「ノマドランド」スタッフ・キャスト

監督・脚本/クロエ・ジャオ
原作/ジェシカ・ブルーダー
『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』

キャスト/ フランシス・マクドーマンド
 デヴィッド・ストラザーン
リンダ・メイ
シャーリーン・スワンスキー
ボブ・ウエルズ

音楽/ルドヴィコ・エイナウディ
撮影/ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ

ヴェネツィア国際映画祭/金獅子賞
アカデミー賞/作品賞 監督賞 主演女優賞

「ノマドランド」あらすじ
※最後までネタバレしています


ネバダ州企業城下の町エンパイア、リーマンショックの影響で採掘会社が倒産し町はゴーストタウンと化します。


夫亡きあとも住み続けていたファーン(フランシス・マクドーマンド)ですが、町ごと閉鎖されることになり、退去を余儀なくされます。

彼女はバンに思い出の品を詰め込み、放浪の民ノマドとなる道を選びます。

孤独なファーンに荒野の風が容赦なく吹き付けます。
しかしアマゾン配送センターの仕事に入った彼女は、同じノマドのひとたちと知り合いになります。

もともと遊牧民や放浪者という意味のノマド。

昨今、車上生活をしながら過酷な季節労働の現場を渡っていく、主に元中産階級シニアのひとびとのことを現代ノマドと呼ぶのです。

クリスマス前の繁忙期に、駐車場を用意してノマドをたくさん受け入れるアマゾンは、寒冷期に助かる宿営地です。

クリスマスが終わっても、近辺で働きたいファーンですが、仕事はありません。ファーンは、アマゾンで知り合ったリンダ(リンダ・メイ)に誘われていた、アリゾナで開かれる「砂漠の集い」に向かうことにします。

「砂漠の集い」は、ノマド情報を発信するボブ(ボブ・ウエルズ)が主催し、車上生活をする上で必要な知識の講習会もあります。

ファーンは、様々な背景を抱えノマドとなったひとびとの語らいに入っていきます。
そこで癌を患うスワンスキー(シャーリーン・スワンスキー)やデイヴ(デヴィッド・ストラザーン)とも知り合います。

ファーンは夏から秋、リンダやデイヴと季節労働に従事します。

デイヴはノマドをやめ息子の家族と一緒に住み始め、一緒に暮らさないかとファーンを誘います。
ファーンは姉からも一緒に住もうと言われていました。
しかし彼女はベッドではよく眠れず、バンに乗って出発します。

再び冬、アマゾン配送センターに戻ってきましたが、そこにリンダはいません。

誰もがずっとノマドを続けることはできないのです。
リンダは老いたノマドのための居場所作りを考えていました。
その実現に向け歩き出したのです。

ファーンはひとり年を越し、アリゾナ砂漠の集いに向かいます。

スワンキーは亡くなっていました。
薪に石を投げ入れ、彼女の追悼が行われました。

1年をノマドとして過ごしたファーンは、変わる事のない亡くなった夫への想いを、ボブに語り始めます。
ボブは彼女に、ノマドには「さよなら」がない、「また」と言って別れる、
またどこかで会える気がするんだ・・・と。
彼も、胸の奥にしまっている思いを語ります。

(お願い)

「ノマドランド」は色々な感じ方ができる作品です。

作品解説の部分は視聴後読んでいただけると幸いです。。。

作品解説
「ノマドランド」の社会背景


北アメリカで「放浪」と聞くと、
北米インディオが疾走した大陸、ヒッピー文化がうまれ、現在もキャンピングカーで移動生活をする人々がいるというイメージです。


でも映画で描かれたノマドの人々の暮らしは、かつて持っていたイメージとはまったく違っていました。

ノマドの多くが、元中産階級シニアであるという事実は、ノマドを生んだ社会背景を如実にあらわしています。
彼らは長く働いてきた人たちです。
しかし住宅の高騰が、家を維持できるほど年金や貯蓄が多くなく、若いひとほど高収入を得ることができない層を直撃しました。

つまり、働きづめで家を維持するより、家を手放し車で移動して自由に働くことを選んだのが、現代ノマドなのです。


なぜ中産階級でシニアなのか?それは車を保持できているという事であり、労働経験が豊富という事です。

残念ながら、ノマドも特権と無縁ではありません。

映画には黒人も登場しますが、ノマドはほとんどが白人のシニアと言われます。
白人なら駐車場で夜を明かそうと思ったところで、職務質問されても移動すれば済みます。
でも有色人種の場合、職質だけでなく警察に連れていかれるため、実際はまず無理なのだそうです。

コロナ過で、ますます住宅が高騰しているそうです。
他国を気にかける状況ではないかもですが、ノマドは増えるのでしょうか、都市を簡単に脱出できない有色人種の人たちが心配になります。

「ノマド」が素晴らしい理由


というわけで残念ながら、ノマドも誰でもできるという訳ではないのですが、

ノマドの素晴らしさは、

住宅費の異常貸付で経済をどん底にしながら、いまだ高騰に乗じ買わせ転売し利益を上げ続けている社会に対し、

必要なものだけ持って自由に生きるという、
違う生き方を示したところです。

車上生活では自然の厳しさには耐えるしかなく、暖かく美しい瞬間は恩恵のようにやってきます。

今作を通し見えるノマドの暮らしには、
自然と、自由と、助け合いのある生活を通し、より人間らしいと感じる尊厳を持った生き方があります。

日没前の、マジックアワーと呼ばれる素晴らしい景色。
広大で美しい景色の中にひともいます。
自然の中にひとは溶けていき、
自然とひとの営みが、生き死にが、一体となっていきます。


ボブの、ノマドには最後の「さよなら」がない、「またどこかで」と言って別れ、どこかでほんとうに会える気がする。。。という言葉は、
ノマドの人々の在り方なのだと思います。

シニアの多くは、すでにたくさんの別れ・喪失を体験しています。
喪失をもので癒すのではなく、喪失と共に生きる、生き方なのです。

映画のファーンも、
夫と暮らした町と家にこだわっていましたが、
ものは処分し、新しい旅へと出発します。

映画「ノマドランド」が素晴らしい理由


今作で三度目のアカデミー主演女優賞をとることになる、プロデューサーでもあるフランシス・マクドーマンドは、原作に出会って”これは伝えなければならない”と思い、版権を獲得します。

ドキュメンタリー×フィクションという手法の「ザ・ライダー」(2017年)で手腕を見せた中国人女性監督クロエ・ジャオと契約し、フランシスは実際にノマドの暮らしに入ります。

フランシスはノマドになりきっていたので、撮影が始まるまでノマドのみんなは彼女が超有名女優とは気付かなかったというから驚きですね。

そしてもっと驚いたのはフランシスとデヴィッド以外、ノマド役を本当のノマドのひとたちがやっているという事。
彼らの言葉はどれも素晴らしいのです。

でもそれは彼らが「役者」だったのではなく、監督・撮影監督がノマドに寄り添い入り込んで撮っているからなのです。

リンダは本当に、ノマドがノマドをできなくなった時のための、自給自足の家を作ったそうです。
スワンキーが亡くなったところはフィクションで、元気だそうです。
ボブが家族を亡くした事を語ったところは、台本には無かったそうです。
彼も、フランシスがノマドに入り込んでいたから心を開き、そこまで語ったのだと思います。

自然描写も同じで、撮影は自然光を使い…「没入感」と言うみたいですが
その自然の中にいるような、映像が再現されています。
特にマジックアワーのシーンは、自分もずっとそこにいたくなります。

つまり観客は、自然の中にいるノマドの暮らしにはいりこみ、
ノマドが見ている風景を一緒に見て、
そこに投影されるノマドの心象を感じるのです。

だから・・・
セリフ少なく映像が続くたんたんとした映画なのですが、
観ると色々なことを感じるのです。

観終わって印象に残った場面や感想を出し合うと、
みんな違うので、これがまたすごく楽しい!

この記事は私が感じた事になってしまいますが、ぜひ他のひとの感想も聞いて、
「ノマドランド」を語り合うのがおすすめです!

最後に音楽について!

音楽は有名なピアニスト、ルドヴィコが担当し、ファーンが出会う風景をより抒情的に見せます。

しかし最初困りました。
私は一時期ルドヴィコの曲をものすごく聴いていたので、彼のピアノが始まると染みついた記憶やイメージがじゃんじゃんわく訳です。
こういう人、けっこういるんじゃないかと思います。
でもまあ、2回目視聴ぐらいで、曲が自分の記憶にひっぱられず、映像のためのものになってきましたので、まあ大丈夫ですね

それぐらい、映像力が強いんでしょうね!

「ノマドランド」視聴方法


現在「ノマドランド」を動画配信で視聴する方法としては、
U-NEXTがおすすめです。

31日間の無料お試し期間があり、この作品も無料で視聴できます。
(入会・退会は簡単です)

※「ノマドランド」は新作なので399ポイント(つまり399円)必要ですが
U-NEXTは、お試し期間に600ポイントのプレゼントがついているので、実質無料で視聴できるシステムになっています。

※ただし、今はまだ視聴期間が2日間なので、ご注意下さい

※2021年9月の情報になりますので、サイトで最新情報をご確認下さい

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