≪s-tsuchiya≫
「夏の終り」
2013年 (日本)
原作は瀬戸内寂聴
出家前の瀬戸内晴美時代、1962年に発表された短編です。
1963年には短編集として出版され、女流文学賞を受賞、100万部を超えるヒットとなった代表作です。
瀬戸内寂聴さんは昨年99歳で亡くなられました。
宗教家というイメージが強く、それまで小説を読んだことがなかったのですが、この映画を公開時観てすぐ買いにいきました。
この原作すごい、瀬戸内晴美さんってすごい、と思った作品だったので。
映画は原作とほぼ同じですが、原作と映画、それぞれがすごいです。
寂聴さんも”肌に粟を生じて見た”(予告編より)と。
晴美時代、彼女の結婚や恋愛体験がもとになった、自伝的小説です。
短編集「夏の終り」は、「雉子」以外、「あふれるもの」「夏の終り」「みれん」「花冷え」が同じ人物が登場する連作小説で、映画のもとになっています。
メガフォンをとったのは「私の男」「海炭市叙景」の熊切和嘉監督。
満島ひかり、小林薫、綾野剛 が三角関係を演じます。
≪eiga.com≫
staff
監督/熊切和嘉
脚本/宇治田隆史
原作/瀬戸内寂聴「夏の終り」
音楽/ジム・オルーク
撮影/近藤龍人
編集/堀善介
夏の終り あらすじ
染色家として自活する知子(満島ひかり)は、年上で不遇な作家慎吾(小林薫)との関係を八年も続けている。
彼には妻子がいて、自宅と知子宅を数日ごとに行き来する。
知子は慎吾と結婚したいわけではなく、寛容な彼との安楽な関係につかり続けている。
そんな二人の日々に、年下の男、涼太(綾野剛)が入ってくる。
知子は学校を出てすぐ見合い結婚し一児をもうけるも、離婚した過去を持つ。
夫を捨て走った相手が、元夫の教え子の亮太だった。
慎吾との生活を続けながら、知子は若い涼太との愛欲に溺れていく。
感想 ネタバレ
知子は涼太や慎吾の妻の気持ちを推し量る事なく、慎吾との暮らしを続けあまつさえ、涼太に慎吾の妻の影口を言いに来る。
そんな知子に涼太は苛立ち、罵倒する。
慎吾と知子の関係はいつも繋がっていて。(そこを表したシーンが秀逸)
涼太と一緒にいても慎吾と糸で繋がっているような関係なのに、必要な時、慎吾は実家に帰りそばにいてくれない。
だから彼女はもう一人を必要とするのだろうか、三角の関係を作りたがるのだろうか。
もとより知子という人物は、
慎吾がいつも彼女のそばにいる、100%所有しされているような関係というのはとても無理に思えるけれど。
涼太に去られた彼女は、今度は慎吾の妻を訪ねる。
もう一人の存在を求めるかのごとく。
妻が慎吾との関係を変えてくれないか、自分の仲間になってくれないかと、都合のいい事を考える。
慎吾の実家を見て、妻の声を初めて聞いて、彼女は慎吾の妻にしいた荒涼を知る。しかし、慎吾を挟んで対角にいた知子にも、それは同じだったにちがいない。
知子が慎吾を捨てようとした時初めて、物語からは、知子のどうにもならない欲望の話しなどではなく、慎吾の恐ろしほど追い詰められた精神世界が見えてくるような気がした。
三角関係を望んでいたのは、彼だったのかもしれないと思えてくる。
慎吾と知子と妻。慎吾と知子と涼太。
彼は複数の人間の間を渡り続ける「習慣」を作らなければ、生きていけない人だったのかもしれない。
慎吾の習慣の空間にされた狭い部屋では、もう息ができないと知子が叫ぶ。
でも、知子はいい。
彼女には恋をし作品を作り続けるエネルギーがたっぷりある。
しかし慎吾にはそんなエネルギーがあるとは思えない。
年をとる。それでも作家を続けなければならないという事は、とても恐ろしいような気がしてしまった。
≪eiga.com≫
(彼女も次の恋愛で仏門でに入る事になるのだろうけど・・・・)
夏の終わり ロケ地 (監督と建物)
知子が息ができなくなる、ぴったりな部屋を描く鬼才熊切監督です。
熊切作品をたくさん見ているわけではないのですが、「夏の終り」と似た建物が舞台の、
「BUNGO~ささやかな欲望~」見つめられる淑女たち/人妻(2012年)
NHKドラマ「満願」(2018年)
が大好きで、建物がとてもいいんです。
どういう建物かというと、
「夏の終り」の家屋はこういうところで解説してあるので、参考にされてください。➡シネマドリ
明治末期から昭和初期に建てられた、兵庫県加古川市に実際ある社宅で撮られています。すごいですよね。昭和初期の建物がまだあって、使われているということに驚きます。
なんというか、色合いは京都の町屋な感じ。
間取りは、昔の木造公営住宅でみられたメゾネットタイプ(長屋)の、原型デザインのような感じです。
「BUNGO~ささやかな欲望」の「人妻」でも、「夏の終り」と同じ板塀の通りが出てきます。
原作では、知子の部屋にはテレビもあり、映画より現代的な暮らしにみえます。
映画では昭和初期の建物が舞台なので、高度成長期が始まる前、戦後すぐの物語のように思えてきます。
原作と映画は違っていると思うのですが、熊切監督の色彩空気感がべったりと小説に張りいてもう離れない感じです。
もう一つ知子の状態を表すのが、型彫りの様子、実際に染めた作品です。
素晴しいのに、どうしようもない焦燥と孤独が迫ってくる。
慎吾が週の半分やってきた家から出て、知子は作業場に風が通り抜ける新しい家に移ります。
その解放感には堪らないものがありました。
「夏の終り」視聴方法
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「BUNGO ~ささやかな欲望~」(2012年)
6人の監督が競作した短編映画集です
熊切監督の「人妻」は「見つめられる淑女たち」巻の三作目です
NHK制作「満願」(2018年)はまたいつか
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